肺高血圧症の病態の解明、診断能と治療成績の向上、および治療指針の確立をはかり、貢献することを目的として活動を行っております

本学会について

2023年度 日本肺高血圧・肺循環学会「Jamieson CTEPH award」受賞者および受賞論文要旨

最優秀賞

●石田敬一(千葉県済生会習志野病院 心臓血管外科)

Modification of pulmonary endarterectomy to prevent neurologic adverse events

論文の要旨

背景

間欠的超低体温循環停止法により行う肺動脈内膜摘除術(PEA)は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する効果的な治療法である。せん妄や不随意運動を呈する脳合併症は循環停止法に関連する重大な合併症であり、我々は人工心肺プロトコルを改変して予防に努めた。今回、それらプロトコル改変の手術成績への影響を検討した。


方法

当院でPEAを行った87例を補助手段により3群に分け、手術成績を検討した。S群(49例):間欠的超低体温循環停止法(20分、20℃)+α-stat法、M1群(19例):間欠的超低体温循環停止法+緩徐冷却復温(咽頭温―膀胱温<5℃)+冷却時pH-stat法、M2群(13例):間欠的中等度低体温循環停止法(7分、24℃)+緩徐冷却復温(咽頭温―膀胱温<3℃)+冷却時pH-stat法。脳合併症は術後心臓リハビリテーションを妨げる、せん妄や不随意運動と定義した。


結果

各群とも、術後に肺動脈血行動態は有意に改善したが、群間差は認めなかった。脳合併症はS群のみ、14例(29%)にみられ、13例が一時的、1例で永続的だった。S群内での検討で、脳合併例は年齢が若く、Jamieson type 1病変が多く、循環停止時間が長く、加温時間が短かった。多変量解析で、循環停止時間(cut-off値57分)(OR 1.1, 95%CI 1.04-1.17, p<0.001)とJamieson type 1病変(OR 14.5, 95%CI 2.3-91.6, p<0.001)が独立予測因子だった。M1群は、人工心肺時間が長く(431.6 ± 119.8分)、抜管後に非侵襲的陽圧呼吸療法が必要な症例が多かった(17例,89%)。M2群は循環停止時間が長く(66.2 ± 18.9分)、54%の症例で60分以上であったが、脳合併症は認めなかった。


結語

脳合併症は間欠的超低体温循環停止法で比較的多い合併症であった。緩徐冷却復温を用いた間欠的超低体温循環停止法変法は予防に有効であったが、人工心肺時間は延長し、抜管後の酸素化不良により非侵襲的陽圧呼吸療法が必要となった。一方、間欠的中等度低体温循環停止法は、循環停止時間延長にもかかわらず、脳合併症は認めず、循環停止時間延長が予測される症例で有用である可能性が示唆された。