肺高血圧症の病態の解明、診断能と治療成績の向上、および治療指針の確立をはかり、貢献することを目的として活動を行っております

本学会について

2023年度 日本肺高血圧・肺循環学会「八巻賞」受賞者

2023年度 日本肺高血圧・肺循環学会「八巻賞」受賞者および受賞研究題目

●澤田 博文(三重大学医学部附属病院小児科)

「肺高血圧動物モデルを用いた肺血管病変形成機序の解明ならびに小児肺高血圧診断における学校心電図検診の役割」

研究要旨

「肺高血圧動物モデルを用いた肺血管病変形成機序の解明ならびに小児肺高血圧診断における学校心電図検診の役割」

肺高血圧(PH)研究を始めた2000年代初頭は、PH病因論においてBMPR2がthe first genetic clueとして登場し、患者さんへのPH標的治療が導入されつつあり、また、炎症機序が、臨床的にも実験的にもPHに関わっていることが示唆され注目を集めていた時期であった。まず、炎症に関連する主要な転写因子であるNF-κBに注目しその役割を検討した。(Sawada H Chest. 132: 1265-74. 2007) 同研究では、モノクロタリンラットPHモデルでは、血管内皮細胞でのNF-κBの活性化と内皮障害から炎症細胞浸潤がもたらされ血管病変形成と関連していることを示した。さらにNF-κBの阻害剤は、肺への炎症細胞浸潤、肺血管病変、PHを抑制することを示し、NF-κBを介した炎症機序の治療標的の可能性を示した。この後、Stanford大学Marlene Rabinovitch教授に師事し、同研究室では、BMPR2と炎症機序の関連に着目したプロジェクトを展開し、血管内皮細胞のBMPR2のシグナル低下が小胞体ストレスの増加を介し、GM-CSF等の炎症性サイトカインの産生をタンパク質翻訳レベルで促進し、肺血管炎症の亢進、肺へのマクロファージ浸潤に関わることを示した。(Sawada H, J Exp Med, 211:263-80 2014) この研究により2011年American Heart Association Cournand and Comroe Young Investigator Prizeを受賞した。同研究室在籍中にはBmpr2遺伝子や転写因子の変異マウスモデルの開発を担当し、血管内皮特異的Cre-driver制御下に、PPARγやBMPR2 を発現制御したモデルを作成し、表現型を解析した。これらの実験で、FK506のBMPR2経路賦活による治療効果を検討した研究等、以下の研究の生体での機能解析部分を担った。(Guignabert C, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 297: L1082-90 2009; Alastalo TP, J Clin Invest, 121: 3735-46 2011; Spiekerkoetter E, J Clin Invest. 123:3600-13. 2013) 米国から帰国後、三重大学にて研究を継続し、SU5416低酸素モデルを用い、当時開発されたエンドセリン受容体拮抗薬マシテンタンの病変退縮への効果を検討し、早期治療により病変退縮がもたらせる可能性を示した。(Shinohara T, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2015 Mar 15;308(6): L523-38)。また、同モデルを用い新生内膜形成における平滑筋脱分化の関与(Otsuki S, PLoS One. 2015 Feb 25;10(2):e0118655.)を示した。また 新たに東京大学病理学教室で同定したBMPR2経路の標的分子Atoh8欠損マウスにおいてPHの増悪を示した(Morikawa M, Science Signaling. 2019, 12(607))。様々な疾患に置いて関与が示唆される胎児プログラミング仮説に着目し、周産期の慢性低酸素暴露により、平滑筋でのDNAメチル化プロファイルが変化し、炎症や増殖能の促進の結果、SU5416低酸素モデルで成人期に相当する時期に、血管病変が増悪し、致死的となることを示した。(Oshita H, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2022 Aug 1;323(2):L178-L192.)さらに、CRISPR/Cas9を用いたBMPR2の1塩基挿入ラットを世界で初めて作成し、PHを誘導し病態や予後を悪化させることを示した。(Kabwe JC, Respir Res. 2022 Apr 8;23(1):87.


一方、小児PHの臨床では、特発性・遺伝性肺動脈性肺高血圧(IPAH/HPAH)の早期診断における学校心電図検診の役割を検討し報告した。(Sawada H, Am J Respir Crit Care Med. 2019 Jun1; 199(11): 1397-1406.)この研究では、全国小児循環器修練施設から87例のIPAH/HPAH患者のデータを集積し、小児IPAH/HPAH患者の41%が学校検診を契機に診断されていることを示した。また、学校検診で発見される患者の特徴として、すでに高度のPHは認めるが、症状を認めない患者であった。さらに学校検診で発見される患者では、エポプロステノール治療が必要な患者さんが少ないことを示した。この報告は、一般人口でのIPAH/HPAH患者のスクリーニング法としては世界初の報告であり、真の早期診断に向けた糸口を提供する結果であった。